会社の前の工事現場に、ジョイスみたいな風貌のおじさんがいる。初夏くらいからだろうか、警備員として毎日じっと立っている。
出勤時とお昼の外出時に見かけるが、夜退勤するときにはもういない。電灯と工事のフェンスがつくる影に、朝と昼見た彼の姿がうっすらと浮かんで、きっと今頃は狭いアパートで一人、黙々と秘密の創作活動を行っているんだろうという考えが自然と脳裏をかすめていく。ヘンリー・ダーガーのように人知れず、何かを書いている。
少しびっこな彼は、立て付けの悪いアパートの階段でよく足をもつれさせる。しかしそれには一向に意を介さない。彼の頭には今、様々な言葉が経巡っているからだ。
部屋の明かりを付け、顔を洗い、作業着を脱ぎ、コンビニで買ったパンやおにぎりを食べながら、彼はささくれだった文机に向かう。
いつもそうしているように。
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